出世と左遷


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出世と左遷

高杉良  新潮文庫

 

■ざっくりいうと

中堅損保を舞台にした、会長の人事権に振り回されるサラリーマンのお話。会長の秘書だった主人公が左遷で損害調査に飛ばされ、そこからまた出世ラインに戻るまでの物語。

 

■胸にささった文章

レイモンド・チャンドラーは小説『プレイバック』の中で、主人公の私立探偵フィリップ・マーロウに「男は強くなければ生きてゆけない。優しくなければ生きてゆく資格がない」と語らせている。私はこの言葉が好きだが、「男」を「人間」に変えれば、老若男女を問わずに誰にでも当てはまるのではないだろうか。(P411、あとがきより)

 

■感想

最近は高杉良の本ばかり読んでいます。だって家にあるんだもの。

タイトルである「出世と左遷」は主人公の人生を意味しているが、常務取締役で関西に異動させられる宮本もある意味この本の主人公であるように感じた。出世をとるか、友人の誘いをとるか、娘の幸せをとるか…本来の主人公が霞んでしまうくらい宮本の人間性が魅力的に描かれていると思う。

それにしても人事権を手放さない会長って世の中にどのくらいいるのだろうか。私欲ではなく会社や従業員を思っての人事を行っている経営者はいるのか?と、この本を読むと疑問に感じてくる。いつまでも権力にしがみつくのではなく、いさぎよく退任するのがかっこいいですね。

個人的には、副社長の水谷が最後の最後でかっこいい仕事を見せてくれて痺れた。穏やかだけど言うときはしっかり言う。私もこんなふうになりたい。